建築の社会史序説

レクチャラ:吉野良祐

日時:2018年10月21日17:00~20:00 @ 東京大学本郷キャンパス工学部1号館3階講評室

建築が工学や芸術として存在していると同様に、ディスクールの学としても成り立っているのだとすれば、我々が対象とするテクストはより多様なものでなければならない。大文字の建築家が大文字の建築を語るという現場だけでは、捨象されてしまう現実があまりにも多すぎる気がするのだ。


本レクチャーは、明治末のひとつの建築をめぐる論争の報告である。ある国家的プロジェクトを扱う政府委員会における建築家と行政側の対立は、明治43年10月14日の委員会で顕現し、メディアはこれをスキャンダラスに報じた。これを機に、建築家のみならず、政治家、芸術家、美術評論家、ジャーナリストなど、様々な主体が建築を語りはじめたのである。そしてその言葉は、Architectureとは何か、Architectとは誰か、という高次の問いに向けて発せられたものとなった。


これが建築にとって幸運なことだったのかはわからないが、少なくとも建築は、その語りにおける倫理や社会性、政治性と無縁でいられなくなった。このできごとに建築をめぐるディスクールの近代性を見出そうとするとき、その可能性と限界は21世紀にも開かれた問いを投げかけているように思える。

文責:吉野